彼女の声に魅了されて四十年。
今も変わらぬ、その声に惑わされたまま、年月が流れた。
アフリカや南極へも出かけて、いろいろとものも書かれている。
10年前、「私の暮らしかた」という本が出てすぐに買い求め読んだ。そこにはとんでもない落とし穴が仕込まれていて、「楽しいこと嬉しいこと」という軽いエッセイがあり、『カイエ』というアルバムを聞いてパリに渡り、暮らし始めたというK君の話など、分かるわかる、という感じで読んでいると、次の頁は「空蝉の夏」というタイトルで始まる。
四季にまつわる楽しいお話かと思いきや、生き残った特攻隊員だったお父様の話で、不意打ちどころではなく、パリの左岸あたりの夏の木漏れ日の余韻に浸っていた瞬間、突然深い奈落の底に落とされ、1945年のあの夏に持っていかれる。
この頁の並びは一体何なんだ。
彼女は何を目論んでいる?
あの何も知らないような、清純無垢な、澄み切った声の裏側に、人生の闇をまぶしたようにどこか深いところへと吸い込まれていく、あの気分はこうした不意をつく、彼女の技なのか?
その壮絶な物語をもう一度読み直してみようと思ったのは昨日観てきた「ゴジラマイナスワン」の主人公、敷島が生き残った特攻隊員という設定だったからだが、大貫さんのお父様はゴジラよりももっと恐ろしいものと静かに戦い続けていたに違いない。
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