今年の4月、お伊勢参りに行って
きました。
伊勢市駅を降りて、外宮参道を
歩いていると雲行きがあやしく
なってきました。
神宮の中に入ってしまってからは
傘は買えないし、かと言って、
雨も降っていないのに傘を持って
お参りするのも邪魔だなあと、歩を
止めて、少し悩んでいると。
「やっかいな空模様ですな。まあ
なんとか持ちこたえるかも知れんし、
微妙なところですわ」
店から出てきて、急に話かける人が
いました。傘屋さんのご店主でした。
彼の一声に押されて、と言うより
何の抗いようもない声に促されて
傘を1本買い求めました。
参道を抜け、神宮の中に入っても
空にはさしたる変化もなく、しかし
いつ降ってきてもおかしくない
うっすらと雲に覆われた空模様でした。
参拝を済ませ、鳥居をくぐった瞬間
でした。
思いがけないほどの激しい雨が降り
始めました。
大粒の雨が買ったばかりの傘に強く
打ちつけます。
傘屋のご主人に感謝だな、と思いつつ
雨の中を内宮に向かいました。
3ヵ月後、幸運にも今年2度目の
お伊勢参りの機会に恵まれました。
やはり外宮からの参拝なので、3ヵ月
前の御礼を言いたいと思いつつ、
参道を進んでいました。
この辺りにあったに違いない、と注意
深く店並みを眺めながら歩いているのですが
一向に傘屋さんが見つかりません。
今日は昨日とは打って変わって好天なので
もしかして店を閉めているのかも知れません。
このままだと外宮に着いてしまいます。
傘の御礼を言うために今来た道を戻ると
いうのも、と思った瞬間でした。
雨がぱらついてきたのです。えっ？
この青い空のどこから雨が降って来たと
言うのでしょう！
それほど申し分のない、晴れた空でした。
突然の雨に、少し動揺し、雨宿りの
軒を探すと、そこに件の傘屋さんが
ありました。
店の中に入ると3ヵ月前の店主が出てきて
「昨日までは結構降っていましたから、
今日はまさかと思うてたんですが、空が
不安定なんでしょうね」
と仰る。
日傘が欲しいほどの夏の光が参道に
満ち溢れているのですが、現に雨が
降っているので黒い雨傘を求めました。
3ヵ月前の小さな出来事を申し上げ、
感謝をお伝えし、代金を払って店を
出た瞬間。道に付いていた雨の跡すら
なく、空は何事もなかったかのように
青く澄み渡っていました。
振り返ると店主の姿はすでに店先にはなく、
がらんとした傘屋があるのみでした。
こんな言葉が浮かんできました。
『神は時として不思議な手立てを使って
サインをお送りになる。それを人は
偶然と呼んでいる』
そういえば、このスピーカーは
「まるで雨に濡れない雨傘ですね」と評していただいたことがありました。
https://youtu.be/G1ccBM58G7o
